いま世間を騒がせているこの2つの問題。 ●どこに問題があったのか? ●その問題を解決するとすればその方法は?
これらを文書管理の視点から考えてみます。
問題の内容を文書管理の視点で簡単に整理します。
『森友学園問題』では、 財務省近畿財務局が森友学園との間における、 土地の売買契約以前の交渉記録などに関する文書を廃棄しており、 売却価格の正当性等を検証することが困難になっています。
『南スーダン日報問題』では、 陸自が南スーダンにおける日々の活動報告文書を作成の翌日に廃棄しており、 こちらも現地で武力衝突があったか否か等の検証が困難になっています。 (あとから統合幕僚監部にデータが残っていることがわかり、一部公開)
2つとも文書管理と関係が深い話題です。
さて、文書のライフサイクルという視点で考えると、この2つの問題には共通点があります。
いずれの問題も「保存期間1年未満文書」という主張を理由に、 ほぼ発生した瞬間に廃棄されたことになります。
さて、2つの問題を法律の視点から考えてみます。
民事訴訟法第228条には、このように書かれています。 「文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。」
つまり、土地売買の交渉記録やPKOの活動日報などの文書は、 当然のことながら「公文書」ということになります。
そして公文書の管理について定めた公文書管理法というものがありますが、 その第1節第4条「文書の作成」には次のようにあります
「行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。」 とあります。 そしてこのあとに、この条項に従って作成された文書の、整理→保存→移管→移管または廃棄といった文書のライフサイクルにしたがって定められた条文が続きます。
この条文から言えることは、 『森友学園問題』でいえば、売買契約書などの「結果」だけの文書だけでなく、 その結果に至る過程である議事録などの交渉記録の文書も、保管や保存が必要だという事、 また『南スーダン日報問題』でいえば、後々現地で何が起こっていたかなどの検証材料となる文書も保管や保存が必要だという事です。
しかしながら今回、これらの文書はこの条文にある「軽微な文書」に該当し、廃棄したというのが、財務省ならびに陸自の主張になるわけです。
財務省にも陸自にも文書管理に関する内部ルールを定めた「文書管理規則」というものがあり、その中に大まかな文書種類ごとに保存年限が定められた「行政文書の保存期間基準」という一覧表があります。 一般的によく言う「文書分類表」のようなものです。
その中で、今回の2つの問題に大きく関わると思われる文書およびその保存期間について、『2017年3月20日 毎日新聞 東京朝刊』では次のように報じています。
財務省の行政文書の保存期間基準表の中では、「歳入及び歳出の決算報告書並びにその作製の基礎となった意思決定及び(中略)過程が記録された文書」という文書が該当し、これは保存期間5年。 陸自の行政文書の保存期間基準表の中では、「国際協力に関する文書」という欄があり、「国際平和協力(PKO)業務」の保存期間は3年。
ということです。
しかしながら財務省ならびに陸自は、「保存期間1年未満の文書」に該当し、用済みにより廃棄したという主張をしています。
先述の通り、財務省や陸自は、 ・公文書管理法に照らし合わせれば「軽微な文書」に該当する ・内部規則に照らし合わせれば「保存期間1年未満の文書」に該当する ・ゆえに用済み文書として廃棄した というのが一連の主張です。
さて、用済みによる廃棄だったのか、意図的な隠蔽だったのかということはともかく、 文書管理の視点において、どこに問題があったのでしょうか。
1つは公文書管理法にあるような、 後々検証が必要になるかもしれない文書が、 「保存期間1年未満の文書」とされていることです。
そしてもう1つ最大の問題は、 「保存期間1年未満の文書」ではない文書だとしても、 「保存期間1年未満の文書」と言えてしまうルールに問題があります。 ルールに「抜け道」があるということです。
財務省にしても陸自にしても、 保存期間基準における文書分類の、小分類が荒すぎるのです。 文書の種類が細かく網羅されていません。 そして文書管理規則の備考欄にはこのようにあります。
「本表(保存期間基準表のこと)が適用されない行政文書については、文書管理者(課長など)は、本表の規定を参酌し、当該文書管理者が所掌する事務及び事業の性質、内容等に応じた保存期間基準を定めるものとする」
つまり保存期間基準表にない文書は、 文書管理者が保存期間を任意に定めることができるということになります。
今回の問題で考えれば、 土地の売却に関する交渉記録も、 PKOの日報も「行政文書の保存期間基準」の一覧表の中に明確に定められていないため、 保存期間の解釈が何通りもあるのです。
ここが抜け道になっています。 悪く言うと、誰かの解釈によって保存年限を変えるという「裏技」が使えてしまうところに大きな欠陥があります。
どんな文書であっても現在のルールだと、 財務省や陸自の担当者の裁量で、 「軽微な文書だから捨てた」 「保存期間1年未満の文書だから捨てた」 と言い切ることができてしまいます。
これではルールが無いのも同然です。 隠蔽が無かったとしても隠蔽を疑われてしまいます。
これはもちろん、民間企業にも言えることです。
何かのトラブルが生じた際に記録があるのと無いのとでは、 その後の行方を大きく左右します。 そしてたとえ自社にとって不利な情報であっても、 きちんと公開し、説明責任を果たして謝罪をすれば、 信用を回復できる可能性も高まります。
逆に杜撰な文書管理を行い、トラブルに関連する記録が無いとなれば、 どんなに優れた製品やサービス、ブランド力があろうとも、 信用は即座に失墜してしまいます。
そうならないためには、 「抜け道」の無い徹底した文書管理のルールを完備することです。
今回のような「抜け道」を無くすための解決策のポイントは5つです。
解決策①:日々発生する文書種類を、細かく洗い出す 解決策②:細かく洗い出した文書種類(文書名)ごとの保存年限を設定する 解決策③:上の①と②が網羅された文書分類を作成する 解決策④:教育をする 解決策⑤:レビューする
【解決策①~③】
文書種類、文書名を細かく洗い出し、それごとに保存年限を明確に定めることで、 保存期間を解釈によって変えることはできなくなります。
我々もコンサル業務においてクライアント企業の文書分類の作成を支援する際、 法で定められた文書はもちろんそれに従いますが、 日常業務で日々発生する文書についても、文書種類を細かく洗い出し、保存年限を設定します。 (法定保存年限一覧のサンプルはこちらをどうぞ)
文書の洗い出し作業は、まず日常における活動の洗い出しから始めます。 活動ごとにどのような文書が発生するかを洗い出していくことで、 「どんな文書があるっけー?」と、直接的に思い出す作業に比べ、 漏れもダブりもなく、発生する文書を洗い出すことができます。 この活動の洗い出しは、時間軸(年間・月間・週間)や業務内容(営業・総務・生産)、社外/社内(顧客向けか社内行事か)など様々な切り口から行うことで、 これも漏れやダブりを防ぐことができます。
このような手順で発生する文書種類を細かく洗い出し、 それぞれに保存年限を明確に定めることで、 誰かの解釈で保存年限を変えることは不可能になります。 逆に廃棄したという主張をするとしても、明確な裏付けがあるため信用性が高まるということになります。
【解決策④:教育をする】
組織のメンバー全員に対し、 文書管理のルールを周知・徹底するよう教育をしなければなりません。
財務省にしても陸自にしても、 今回の事象を見る限り、 文書管理の教育が末端にまで行き届いているとは思えません。 今回のことが意図した隠蔽でなかったら、逆に怖いくらいです。
文書管理を組織的に徹底するためには、 文書管理の重要性やルールを組織のメンバー全員が理解するよう、 日頃から教育することがとても重要です。
弊社のクライアントの一つに港区役所様があり、 文書管理のコンサル業務を請けています。 弊社は民間企業のほか、中央官庁や自治体など様々な行政機関からも文書管理のコンサル業務を請けておりますが、 港区役所様からは許可をいただき、 事例を掲載させていただいております。
港区役所様では、情報公開を誠実に行うため、 弊社のような専門家を活用して、職員向けの文書管理研修を行っております。 文書管理の重要性や内部規則についての理解を深めるなど、 徹底した教育を行っております。
規則はあるだけでは意味がありません。 実行主体が理解することではじめて実現するということです。
【解決策⑤:レビューする】
一度定めたルールが正しいとは限りません。 定期的に見直すことも必要です。
例えば先述した保存期間についても、定期的な見直しが必要です。 不要な文書が長期保存対象になっていればスペースを圧迫するので保存期間を短縮し、 逆に必要な文書が1年未満などの短期保存に指定されていれば、 保存期間を延長しなければなりません。
財務省や陸自の問題に関連する文書も、 本当に「保存期間1年未満」としているならば、 今回のような情報公開のニーズがある以上、 保存期間の見直しを実行するべきではないでしょうか。
『森友学園問題』と『南スーダン日報問題』の2つの問題、 われわれも専門業務でありながら、 改めて文書管理の重要性を再認識しました。
文書管理が杜撰だと、組織の信用は地に落ちます。 逆に文書管理を組織的に徹底していれば、 トラブルに対しても説明責任が果たせ、 信用を維持できる可能性は俄然高まります。
これを機会にぜひ考えてみましょう。
コンサルティング事業部/鈴木
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